’16.1.5
2016年は、株の大発会で日経平均が600円も暴落したとか、サウジアラビアとイランが国交断絶したとか新聞の見出しが騒がしい幕開けとなった。年末に引き続いて年明けも、柄にもない大きな話でスタートしよう。
何十年も前に始まった中東戦争は、複雑すぎてよく分からない。少し新聞を読む時間も増えたいま、今起きている中東問題を知ることでさかのぼって問題を理解するのも悪くない。いつもならが新聞の受け売りではあるが。

中東やISを理解するには宗教のことを知っておくことが必要だ。先ずイスラム教徒にスンニ派とシーア派があるということだ。今回のサウジアラビアとイランの国交断絶を理解するうえではこの両派の争いだと思えばいい。
なぜイスラム教徒でありながら、スンニ派とシーア派があるのか。仏教の宗派の違うのとはちと訳がちうようだ。

ことは632年に死んだ預言者ムハンマドの後継者選びで、別々の最高指導者を位置づけたことにある。今では世界のイスラム教徒人口の8割がスンニ派、残りの1割強がシーア派といわれる。
スンニ派の王室が支配するサウジアラビアに対し、イラクではフセイン政権の崩壊で多数派のシーア派が政権を握った。利権を失ったイランにいるスンニ派旧支配層が過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭に手を貸したとされているから複雑だ。
シリアでもシーア派に近いアサド政権をイランが、スンニ派の反政治勢力をサウジがそれぞれ支援。イエメンやシリアの内戦は中東地域の覇権を巡る代理戦争の様相を呈している。

中東の混迷は、宗教だけでなく石油を巡る経済情勢も絡んでいるからやっかいだ。
こんな混乱もアメリカの影響力が低下し、中東の安定に向けたアメリカの「制御機能」が衰えたことが現在の危機を招いているというからアメリカの罪は重い。日本やヨーロッパのアメリカ同盟国は、迷走を重ねてきたアメリカの外交戦略の建て直しに力を貸さねばならないようだ。

サウジは世界屈指の産油国であるだけでなく、メッカとメディナというイスラム教の二大聖地を領内に抱える。その安定は中東地域だけでなく世界の政治や安定にとっても極めて重要だ。
だからこそアメリカの歴代政権はサウジと特別な同盟関係を続けてきた。サウジが穏健なイスラム主義を維持し、世界への石油の安定供給に責任を持つ代わりに、アメリカが後ろ盾になると言う暗黙の契約があった。

ところがサウジから見れば、この契約を裏切ったと感じる出来事があった。オバマ政権の一貫性を持たない、場当たり的な外交政策が今の中東地域の不安定な状況を作った元凶なのだ。
その第一は2011年に中東各地に広がった民主化運動「アラブの春」で、アメリカが画策する民主化運動でサウジの体制が危機に直面した。
第2は15年7月にイランと米欧など6カ国が達した核合意だ。その結果アメリカなどがイランに科していた制裁が解除される。これはイランが石油販売収入を増やして資金力を高めることになり、中東で覇権を争うサウジにとっては大きな脅威になる。
第3はアメリカのシェール革命だ。アメリカの販売するシェールガスは原油の需給を緩め、サウジにとっては大幅な収入源につながる。シェール革命はアメリカの民間の起業家がもたらしたものだが、サウジを追い込む外交戦術のように見える。

このようなオバマ政権の外交方針に、サウジなど中東の同盟国が場当たり的で一貫性がないと受け止めたことだ。不信を向けられたアメリカに代わってロシアのプーチン政権が介入姿勢を強め、イランやエジプトへの影響をましているから、中東情勢は大国を巻き込んでいよいよ難しくなっている。
ここにも支離滅裂と酷評される冷戦後のアメリカの外交・安全保障戦略の建て直しが急務だ。まずは指導力を発揮してシリアの内戦を終わらせ、中東で長期的な政治の民主化と経済の自由化に道筋を建て、中東の和平プロセスを前進させる必要がある。
負担に耐えかねているアメリカには、同盟国の支援が欠かせない。成立した日本の安保法案が日本を中東の戦争に巻き込むようなことがあれば、民間団体が新年からデモを繰り返して騒いでいる「戦争法案」と言われても仕方ない。

複雑な中東情勢を数日の新聞情報を元に書いてみた。書いているうちに全く無縁だと思っている中東問題が、日本も戦争に巻き込むことにでもなればと新年から寒気がしてくる。
「イスラム国」の問題も含め自分なりに複雑に絡んだ中東問題の糸をほぐしていくことができればいいと思っているが、さて。