’20.12.14
「セルフメイドの空間」というタイトルは、日経のコラム「文化」に掲載された建築家隈 研吾氏のコラムのタイトルから拝借した。

コロナというのは、建築空間の長い歴史にとって、一つの折り返し地点になると僕は考えている。正確に言えば、折り返し地点にならなければいけないと考えている。
人類が歩んできた建築空間の歴史とは、「集中へ」という一言に要約できる。野っ原という、境界も壁もない自由空間を駆け廻り、狩猟採集に明け暮れていた人類は、集まって定住を始め、やがてハコの中に詰め込まれて、労働を強制された。
それが効果的であり、幸福であると信じ込まされて、「集中へ」の坂道を転がり続けたのである。その閉じた箱で働くことが社会のヒエラルキーの上位にいることを意味し、だれも疑わなかった。
いまやコンクリートや鉄という、素人には扱いにくい素材でできた都市から、ついに脱出する時が来たのである。そういう方向に舵を切っていけたら、都市はもっと風通しがいい場所になるのではないか。
その反転に気付いたことが、2020年、新型コロナ禍の最大の収穫であった。

コラムを要約すると、以上のようなことが書かれてある。コラムの趣旨とは全く関係はないが、空間を見直すという点では、これから紹介する拙宅の空間もセルフメイドの空間だ。

家を建てて丸7年になる。玄武岩をイメージした黒い外壁と、和室のない白いクロスの内装。部屋数は3部屋だがそれを繋ぐ空間もある。
入居して数年の間は、その空間をウォールステッカーとか窓ガラスにはステンドフィルムを貼って楽しんだ。体の不自由な家内の気が晴れるような、明るくて楽しいデザインを壁や窓に張り付けた。この装飾が思わぬ効果で、その場に立つとそれぞれ個性ある空間を作って不思議な感覚になる

先ず玄関を入ってみよう。


狭い玄関だが、奥行きのある空間にしたいといろいろなステッカーを貼っては取り替えた。何も貼らないと正面は白い収納棚の扉だ。落ち着いたのが天井まで伸びるポプラの樹のステッカーだ。米国製だが購入したネットの店は儲からないのか閉店してしまった。玄関のドアを開けてはいると、ちょっとした違和感のある雰囲気を醸し出している。
右の壁は落ち着いた色のクロスにした。ウォールライトのカバーは、新築の時ついていた照明が暗かったのでDIYで作った。材料はネットで買ったおせちの重箱だ。桐のような材質で加工しやすい。このカバーに変えてから、玄関の照明が明るくなった。


左の暖簾のドアを開けると、一つ目の部屋である私の書斎兼寝室だ。玄関の収納戸棚はもっと広く設計されていてウォーキングクローゼットになっていたが、収納するものも少なかったので半分にして裏になる一つ目の部屋を広くした。






もともとこの部屋の設計は、机の置いてあるところにベットをおき、玄関前のウォーキングクローゼットを半分にして空いた空間を書斎にし机を置く予定だった。部屋の設計図には、予定して配置する家具まで書きこんであった。
暫くはそんな使い方をしていたが、ベットが丸見えの部屋は雰囲気を壊すので、寝室は閉鎖的な場所にと考えベットと机を入れ替えた。壁は一部薄い緑色のクロスを貼って、窓のシャッターも壁の色に合わせた。
ベットの回りの壁には、抽象画の写真とベニヤ板に貼った布の染物だ。フェブリックパネルと言うらしい。マリメッコの柄と明るい色合いの風景を染めた布だ。この装飾に落ち着くまでに、ウォールステッカーを何枚も取り替えた。
ベットを置いたこの空間、どういう訳が手をたたくと音が反響する。そこで、天井には鳴龍をイメージしたステッカーを貼った。(鳴き龍の動画 https://www.youtube.com/watch?v=_gOrorvr-CE )

玄関を入って右に行くと、突き当りが洗面所、洗濯場、風呂場がある。また突き当りの左が一階のトイレだ。そこまでに行く小さな廊下がある。


突き当りの洗面所に入る引き戸には、フクロウのウォールステッカーが貼ってある。入居間もなく買ったステッカーだが、貼る場所がここに定まるまで結構変遷した。何回張替えてもしっかり張り付いてくれる。結構な値段だった分、やはりいいものなのだろう。

この扉を開けると、洗面所、洗濯場だ。


ここには抽象画の写真、子供が喜ぶようなウォールステッカー、窓ガラスにはステンドフィルム、そしてフクロウの置物だ。このフクロウ別の目的で購入したものだが、あまり見栄えが良くないのでここに鎮座している。
抽象画の写真の回りには、目的のはっきりしないステッカーで囲まれていて、これもまた面白い雰囲気を出してる。

この部屋の左手が風呂場だ。


この風呂はユニットバスだ。建築中の家の中を見て回った時、ユニットバスと言われる通りプラスチックの箱が設置されていた。これが風呂場だった。もう7年使っているが、カビは全く生えてない。
浴槽に身を漬けて前を見ると、たぶん夕日だと思うが海に沈む太陽が見えるステッカーを貼った。というより、縦に長い窓のステッカーはこれしかなかった。なぜか風呂場は子供向けのステッカーを貼っている。孫たちが風呂に入るとき、喜ぶようにとの潜在意識が働いたのだろう。一度入りに来たが、もう中学生になっていた。入り口と、浴室に入った正面のステッカーがそれだ。
この正面のステッカーは植木鉢の花だけど、なかなかしっかりしたデザインだ。ただこのステッカーを買って貼った後、一桁安いまったく同じザインのステッカーを見つけた。その後そんなステッカーを見かけるが、安く売っていたのはだいたい中国製とある。
家内のために、浴槽の横に介護用の手すりをあとからつけた。この家の設計は体の不自由な家内を前提にバリアフリー設計だが、要所要所に介護用の設備が抜けている。ここだけでなく、廊下にも後付で手すりをDIYでつけた。

フクロウの扉の左が1階のトイレだ。


トイレの右の壁は、玄関正面のポプラの樹の続きだ。ご丁寧にその樹は便器のふたにまで続いている。この手のウォールステッカーを購入したのは3回目だが、だんだん品質が落ちてきたように思う。ウォールステッカーの要は粘着糊だ。このステッカーはなかなか張り付かないで苦労した。
左の壁にはマチスの「DANCE」のプリントだ。その下にはマリメッコのフェブリックパネル、この構成になるまでにも何回かの変更があった。
正面は造花、家内が亡くなってから飾ったものだ。その後ろの窓ガラスには、お気に入りのステンドフィルム。余りもののフィルムだが、思わぬ効果をだしている。

玄関右の突き当りの右は、階段とエレベータがある。


この空間は我が家のエントランス空間と言ってもいいでしょう。エレベータの前の壁には、大きなベニヤ板にプリントの布を貼ったDIYのファブリックパネルを張ってある。
この壁も何枚かのウォールステッカーを貼ってははがし、結局こんな大きなファブリックパネルを作って飾ることになった。2階から降りてくると目につく。
正面のスタンドランプは、前の家の時からある。結構な値段のランプだったように思う。その気品は年を経ても変わらない。今は電飾を絡ませて、人が来ると点灯するようにしている。
壁の絵はノーマンロックウェルの絵だが、絵の中にラムの写真を貼って絵の中に溶け込んでいる。窓のガラスには、お気に入りのステンドフィルムを貼っている。この写真にエレベーターが写ってないのが残念だ。


2階に上がる階段は、ピカソの絵のプリントが掛けてある。




私はどうも具象画よりも抽象画の方が好きなようだ。抽象画と言っても、絵の色使いに引かれる。結構派手な絵の方が好みに合うようだ。
窓枠に鎮座しているのは黄色のラブラドールだ。ラムを思い出しての置物を無意識のうちに選んだのだろう。

いよいよ2階だ。階段を上って左が二つ目の部屋だ。家内が使っていた。




壁の一部は薄いピンク色のクロスを貼り、窓のシャッターもピンクにした。右の壁は見ての通り大きなマリメッコのファブリックパネルを飾っている。
このマリメッコの布はもともとテーブルクロスとして購入した。ネットでテーブルクロスとして売っていて、当然撥水処理がされていると思っていたが、普通の布でテーブルクロスには使えない。暫くお蔵入りをしてたが、この部屋を明るくする意味でパネルにすることを思い立った。家内も文句は言わなかった。
透明の窓ガラスは後になるが、リビングのステンドフィルムと同じ柄を貼って外から見えないようにした。このデザインは家内のお気に入りだった。大きな窓はベランダの出入り口で、洗濯物を干すためにもっぱらこの窓から出入りしている。
箪笥もこの部屋に置いている。箪笥の上には家内の若い頃からの友達で、前の家の入居祝いに貰った造花を今も飾っている。

2階に上がって右側にはトイレに続く空間がある。


狭い廊下だが、2階のエントランスだ。正面にはこれもマリメッコの柄だが、どこか和風の雰囲気がする。上の写真の書面には、前の家からある人形が鎮座している。布製の人形2体は、いずれも手を挙げて歓迎のポーズだ。
そのテーブルは正面が円形に削られているが、別の目的でちょっとしたテーブルを作ったのだが、使い勝手が悪く人形を置くテーブルになった。
壁のエッジはL字のコーナーを貼って、少しメリハリを出す効果を期待している。ここだけでなく目につく壁のコーナーはこれを貼った。手に入れるのにホームセンターを探して回った思い出がある。最後はネットで見つけて購入した。

この2階のエントランス、奥の左が2階のトイレだ。




入り口の壁には女性が手に息を吹きかけて、蝶が飛び出すウォールステッカーが貼ってある。その蝶がトイレの扉を超えて、このトイレの中を舞降りて最後は蝶の化身の女性になっている。そんな物語のステッカーを貼っている。
左は相変わらずのマリメッコのファブリクパネルだ。正面には小人が造花を抱えている置物だが、これも前の家に長いこと鎮座していた置物だ。前の家は建売の新築を購入して、移転で取り壊すまで28年間住んでいたことになる。
この便器、家内が亡くなってから私も使っているが、一階のトイレの便器より座ると高い。家内も不便を感じて使っていたのだろうが、不満を聞いたことがなかったので私が使うまで気が付かなかった。

いよいよ2階に上がって正面が、リビング、ダイニング、キッチンの三つ目の部屋だ。




開きのドアを開けると、左手がリビングになっている。リビング、ダイニング、キッチン合わせると27.6uの空間だ。右手にガラスキャビネット、左には3人掛けのソファーがある。いずれも前の家から持ってきたものだが、置く場所も設計図に書かれている。
このソファー、前の家の時はもっぱらラムとサリーの昼寝の場所だった。そしてサリーが息を引き取ったのも、このソファーの上だった。2匹がいなくなって座る所が痛んでいたので、革製品のカバーに交換した。そのカバーの方が、このソファーを購入した値段より高かったのには驚いた。
キャビネットは前の前の家の時から使っているので、40年以上使っている。いい塩梅に中央にテレビを置くスペースがあり、今は家内の仏壇を飾っている。その前はゼリブリティーという商品名の音響機器を置いていた。
左の壁は見えないが、玄関と同じクロスのニッチの壁で思い出の写真を貼ってある。ベランダの出入り口にもなっている正面の大きなガラス戸には、二番目の部屋と同じステントフィルムを貼っている。
透明ガラスのままでもいいのだが、道路を挟んだ向かいの家が3階建なので見えないようにした。大きなガラス窓なので、同じフィルムでは面白くないので真ん中をくりぬいて別の柄のフィルムを貼った。変化が出ておもしろい。


こだわりは天井だ。これもニッチにすればこんな細工は必要なかったのだが思いつかなかった。だだっ広い白い天井では変化がないので、ニッチらしくしてみた。ライトもそれなりに変えてみたが、家内が来た人に自慢するほど気に入ってくれた。
DIYでステッカーを貼ったのだが、ライトの取り付けともども一人でよくやったと後で自分ながら感心している。





部屋の扉を開いて正面と右手がダイニングキッチンだ。テーブルは前の家の入居の時に購入したものだ。津田沼の大塚家具から、ソファーと一緒に購入したことを思い出す。
テーブルカバーも何回かかえて、今のカバーはマリメッコのテーブルカバーだ。カバーも家内のいるときから明るい色のものにしている。その趣味は変わってない。テーブルの上のライトはDIYで付けたものだ。料理が少しでも映えるように付けた。
キッチンの壁もこだわった。調理をするとき壁に向かって作業するので味気ない。せめて窓があれば気がまぎれるのだが、そう思いながらこの壁にいろんなステッカーを貼ってみたが気に入らない。そして落ち着いたのがこれだった。ステッカーでなく、ステンドフィルムだ。
ガラス窓ではないので色が見えにくい、そこでこちらからライトを当てることにした。こだわりのライト、照らすときれいな色でひときわ明るくなる。これもこだわりの一品だ。

次は屋上に上がる階段とペントハウスの空間だ。








この空間は私のパワースポットであり、隠れ家というか隠れ空間だ。
壁には8個の壁掛け唐面を掛けてあり、ステッカーも神秘的なステッカを貼っている。よくぞこんなウォールステッカーを見つけたものだと感心する。
新聞jはリビングのテーブルで読んでいるが、家内が元気な時、私の横で家内が新聞を読み終わるとテレビを見る。私はテーブルを立ってこの隠れ空間で新聞の続きを読む。また、昼間眠い時はこの場所で仮眠をとる。屋上に上がるときは、この空間で元気をもらい外の風に吹かれる。
一階から2階、2階から3階への階段は、左右に手すりがある。設計もそうなっていたが、施工した大工さんが左側の手すりをつけ忘れた。引き渡しの前にそのことに気が付き、クロスと石膏ボードを剥がして裏側に板を入れ、手すりを付けたことを思い出す。
今では両側に手すりがあることで、階段の上り下りが安心してできる。両手で支えていると、全く安心して上り下りができる。

以上が小さな我が家の中の空間、いろんな装飾をしているがまだ時々いじっている。たまにご近所さんと飲み会をするが、来られる方も楽しみにしている素振りをしてくれるので励みになっている。