’22.2.2
今日の日経の「大機小機」から

数年前、一億総活躍が政権の目玉政策として打ち出された。少子高齢化に伴う人口減少社会にあって老若男女の誰もが活躍できる社会の実現を目指す、という触れ込みだった。その実現によって国内総生産(GDP)600兆円を目指すとされていた。

現実はどうか。600兆円の道のりは遠く、世界に占める日本のGDPシェアは30年前の18%から6%程度に低下した。豊かさの指標ともされる1人当たりのGDPは直近で世界24位にまで後退し、アジアでもシンガポールや香港の後塵を拝している。
経済協力機構(OECD)によれば平均賃金も30年にわたり低迷し、先進国で最低レベルとされる。一億総活躍どころか一億総貧困化だ。

経済のエンジンは企業と言われる。資本主義でおカネをつくり出せる主体は企業でしかないからだ。かつて世界をリードする日本企業は目白押しだった。今やその面影はかすんで見える。労働生産性や資本生産性は低く企業価値向上に向けた動きは緩慢だ。
その結果、株式市場が評価する日本企業は限られ世界企業との格差は開くばかり。国民も心得たもので、少額投資非課税制度(NISA)などで資産形成を始めた人の多くが米国を中心とする外国企業にウェートを置き、日本企業への投資は極めて限定的だ。

日本企業の低収益性については様々な要因が考えられる。
そもそも一つの産業に参入企業が多すぎること、
いまだに一括採用・終身雇用が主流で労働市場の流動性が乏しく人材が高付加価値企業に流れにくいこと、
人口減少社会にもかかわらず労使ともに雇用最優先のパラダイムから脱却できないこと、
商品やサービスに独自性が乏しくコモディティー競争(値下げ競争)に陥りやすいこと、
などが指摘される。

より重要なのは一般国民の精神構造かもしれない。典型例が「お客様は神様」「おもてないし」の精神ではないか。お客様の無理難題に無償で応えている事例はあまた見受けられる。オリンピック招致で有名になった国を挙げての「おもてなし」は貴重な概念だが、過剰奉仕で身をすり減らしているのが実態だろう。
商品やサービスの提供には対価が存在するという当然の意識を国民に定着させねばならない。一億総貧困化に歯止めをかけられるか、新しい資本主義が問われている。

岸田首相、「新しい資本主義」なんて分からない標語より、先祖返りして「新所得倍増計画」に変えたらどうだろう。お願いしますだ。