’22.2.4
イアン・ブレマー氏は米国ユーラシア・グループの社長。世界の政治リスク分析を専門とする調査会社の社長をしている。個人的な考えとはいえ一つの見識だろう、日経の2030年を予測する氏へのインタビュー記事の一部から。

世界の民主主義はどうなるか
日本でもカナダでもドイツでも、民主主義に脅威は及んでいない。民主主義は米国ではストレスを受けている。米国の前大統領は「選挙が盗まれた」とうそをつき、共和党と大半の支持者を何とか引き付けようとしている。民主主義と全く相反する動きだ。

なぜ米国でそれが起きているのか。3つの要素がある。まず、米国が強力な起業家精神と民間部門、個人主義に支えられた国であることだ。労働と資本の関係が薄れる(働いても報われない)ことで、不公平は広がる。企業の利益やカネの存在が一段と大きくなる状態に人々は怒りを覚える。

第二に、米国は人種間の不公平に決して向き合っていない。巨額を投じた(1930年代の)ルーズベルト政権のニューディール政策で黒人を体系的に排除した。黒人は他の人種と違い、大学に行き、富を稼ぐことが全くできなくなった。今ですらその影響がある。
移民の流入や人種別の出生率の違いから、米国では2045年に白人の人口が少数派になると予想されている。白人と黒人の双方が人種間の扱いの差に怒りをあらわにする。こうした文化戦争は米国に特有だ。

第三に、米国が強力なメディア企業とソーシャルメディアを持ち、個人の影響力が最も強く作用する国であることだ。情報空間でフェイクニュースと過激主義を支持する傾向が増幅される。
世界経済でドルは準備通貨としてゆるぎない地位にある。米国は世界のワクチン外交をリードする。金融市場やエネルギー企業も、米国が最大で最良と言える。しかし政治は最もひどい機能不全を起こしている。

2030年の人工知能(AI)の役割は
心配なのが、子供たちの思考の過程がアルゴリズム(計算手順)によって支配されつつあることだ。私が子供のころは「自然」対「育成」、つまり遺伝的に(子供が自然に)しつけられるのか、親が(育成の一環で)しつけるのかという問題だった。それがいまや「自然」対「育成」対「技術」の構図になった。
これから10年たてば、アルゴリズムで思考過程が形作られたヤングアダルトの時代がくる。これは世界をもっと深刻な分断に導く。アルゴリズムは模範的な市民を作ろうとしないからだ。

あなたは子供にいい人間になってほしいと思うだろうし、幸せにする方法を理解したいだろう。だがアルゴリズムはそうしたことはお構いなしだ。彼らは人間をお金の面で意味のあることに仕向けて行く。AIが市民にもたらす影響を私は非常に心配している。
バイオテクノロジー(生物工学)もAIに関連してくる。文字通り違った種類の人間が作られていく。違った能力や耐病性をもち、住む国や資金力に運命が左右される。短期間にそうした技術力を手にしても、我々はどう利用するのかという責任ある答えを見いだせない。そんな時代が極めて近く来ると思っている。

インタビューではさらに世界秩序は米国主導には二度と戻らないと強調している。そして世界を動かすのはどこかの政府ではなく、一部のテック企業になるだろうとも語っている。これから先の10年後、世界がどうなるのか見てみたいようでもあるがどういう世界になっているのか、話だけの世界でもあって欲しい気もする。