’22.6.9
ロシアのウクライナ侵攻に対する国連総会の非難決議には141か国が賛成した。しかし賛成した国の中でロシアへの制裁に踏み切ったのは、欧米やその同盟国を除くと、わずかだ。
アジアや中南米、アフリカの大半の国は制裁に同調していない。この状況がウクライナ侵攻後の新たな秩序にどう影響するか。あるいは新しい秩序を表しているのか。
世界の国々との付き合い方は難しい。地政学上のことも考慮しながら、国のかじ取りをしていかねばならない。いま日本の同盟国は米国だけだ。岸田内閣は米国だけでは心配だと思い、NATOにも秋波を送っているような動きをしている。
身の程を考えた国のかじ取り、国民はリーダの舵を取る船に乗って動くしかない。今日の日経朝刊に、シンガポール政治学者チャン・ヘンチー氏のインタビュー記事が出ていた。氏はシンガポールの国連大使を経て、駐米大使を16年間務めた。現在は無任所大使として活躍して博士号も取得している。

世界の大半の国は米国・欧州、中国・ロシアのいずれの陣営にも完全にくみしない「第3の空間」に属することを望んでいる。自国の国益を第一に考え、ある問題では中ロに近い立場を取ることを矛盾だと考えない。

第3の空間はどこかの国によって組織化されているわけでもなく、冷戦時よりも構図はさらに複雑になっている。例えば日米豪と共に「Quad」の一員であるインドは中国に関して3か国と歩調を合わせるが、それ以外の問題では独自の立場を譲らない。実際、ロシアとの軍事面での協力関係の深さから、ウクライナ侵攻を非難せずに中立姿勢を保っている。
逆に中国に近いカンボジアは、ロシアに対する国連の非難決議では賛成に回った。カンボジアは過去にベトナムに侵攻された苦い歴史があり、大国による侵攻に声を上げることが自国を守ることだと考える。

バイデン米政権が民主主義と専制主義の二項対立を強調するのは、賢いやり方ではない。
安全保障を経済まで含む広義の範囲に捉え、貿易のデカップリング(分断)を加速するのも、世界を貧しくするだけでどの国の利益にもならない。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は民主主義、疑似民主主義、共産主義、社会主義、国軍による支配と多様な政治体制の集合体だ。民主主義は地域を導く旗印にはならない。
私は民主主義が最善の政治形態だと信じているが、強力な中間所得層の基盤が無ければポピュリズム(大衆迎合主義)にすぐに陥る難しさがあり、西欧の民主主義には逆風が吹いている。

ウクライナ侵攻と中国の台湾進攻を結びつける議論もあるが、ナンセンスだ。中国は1949年の建国以来、対外侵略には極めて慎重で、できれば軍事侵攻なしに台湾統一を実現したいと考えている。ウクライナ危機に乗じて、台湾統一を急ぐことはないだろう。
むしろ欧米が中国のレッドライン(越えてはならない一線)を理解していないことを懸念している。欧米の議員が台湾を訪問し、中国とチキンレースを招く状況を作り出している。誤解によって、台湾で衝突が起きないか心配している。

今の国連は分断された世界を象徴し、何も実行できない。しかしウクライナのような小・中規模の国にとっては依然、自分たちの問題を取り上げてもらうことができる重要な機構だ。

日本はアジアの国々から、大国の中で最も安心できる存在と見られており、各国への防衛協力や能力構築支援も歓迎されている。ウクライナ危機後、ドイツなどは防衛力の強化に乗り出し、日本でも防衛費の増額が議論されている。
各国の反応はあくまで日本がどこまで踏み込むかによる。反発がある一方で、理解を示す国もあると思う。

インタビューの内容は以上だ。アジアの国の女性だけに、穏やかでアジア中心に考え日本への期待を語っているように思う。自国の利益を第一に考え、その結果中立的な姿勢で国を運営する。日本はどう進もうとしているのか、2階の人達だけに任せておいていいものかとも思う。