’00.8.13

そのことは今でもはっきりと思い出すことが出来ます。それは、今日のような風の強い日でした。昼下がり、家の中はお母さんとわたしだけ。わたしはいつものように玄関のたたきで横になり、うつらうつらしてました。その時、「ピン〜ポン〜、ピン〜ポン〜」チャイムが鳴りました。当然お母さんが出るものと思っていましたが、何の気配もありません。またチャイムが鳴りました。

庭の扉の開く音がします。帽子をかぶったおじさんが、玄関の方にやってくるではありませんか。扉の小さなガラス越しに見ていたわたしは、一瞬たじろぎました。「xxさ〜ん」、玄関の扉をコンコンと叩きます。わたしは息を詰め、玄関の奥の隅で背中の毛を立てて固まっていました。暫くしてそのおじさんは何かブツブツいいながら、庭を横切って奥の倉庫の方に行きます。手には大きな荷物を持っています。そしてまた庭を横切って行きました。

ガタガタと庭の扉のしまる音がしました。わたしは息を凝らしてこの様子をガラス越しにじっと見てましたが、おじさんが見えなくなってホッとして後ろを振り向くと、お母さんがニコニコしてわたしの方を見ているではありませんか。「ラム、2階に行ってて分からなかったけど、泥棒さんだったらワンワンと吠えるのよ」。

な〜んだ、お母さんやっぱり居たんだ。今の人泥棒さんじゃーないよね。それにしても恐ろしかったです。こちらに向かってくる時は、息が詰まりそうでした。

それからって言うもの、あの宅急便のおじさんがくると「ワウ、ワウ・・」遠慮しいしい吠える事にしました。運悪く庭に居る時に来られると、庭の奥に飛んで行って「ワウ・・、ワウ・・」と自然に声が出るんです。お母さんはそれを見て、荷物を受け取りながらニコニコしてます。だって、お母さんが・・・・・・・。わたしが吠える唯一の人、宅急便のおじさんでした。