メタバースの扉は開いた  '22.3.7

これから紹介する記事はリンデンラボ創業者のフィリップ・デール氏のインタビューの内容を書いたものです。
彼は1999年リンデンラボを立ち上げ、2003年から「セカンドライフ」を運営。一度離れて、2022年1月から戦略顧問として再合流しています。
約20年の時を経てまたメタバースが話題になっている今、何を語るのか興味津々です。私の「セカンドライフ」体験記の前に、まず紹介します。

仮想空間の最大の特徴は周囲に他人が「居ること」だ。検索や動画視聴などネットのほとんどの活動は独りで進行する。仮想空間では時に何百、何千もの見知らぬ人々がアバター姿で同じ建物や広場に同時に「居る」。この特徴は人間社会に良い影響を与えられるはずだ。
例えばリンデンラボが運営する「セカンドライフ」の中ではご近所さん同士、同じオフィスに勤める人同志が、時間とともに赤の他人から「顔見知り」になり、ついにはお互い信頼する関係になる。しかも物理的には地球の反対にいる利用者がアバター同士で信頼関係を築ける。

この20年、IT(情報技術)、特にSNS(交流サイト)は人々をバラバラな集団に分断し、異なる集団に属する人々の間の信頼を破壊してきた。
反対に仮想空間は設計や運営の仕方によって、人間関係の中の相互信頼を醸成し、異なる集団同士が仲良くやっていく方向に作用できると感じている。良い存在にするにはビジネスモデルが大事だ。

仮にフェイスブックのように人々の行動を四六時中監視し、利用時間を増やすため表示情報を操作し、クリック率の高いターゲット広告で収入を最大化するモデルで運営されたら恐ろしい。
SNS上のクリックや書き込みよりはるかに生身の人間に近いアバターの一挙手一投足が常に監視され、人々を分断するように情報が操作されるような世界は存在を許すべきではない。

セカンドライフは、「土地」の所有者にかかる固定資産税のような手数料と、商取引にかかる消費税のような手数料で収入を得るモデルだ。このモデルでは人々を監視したり操作したりする必要がない。
さらに利用時間を増すための、自動更新画面のような中毒性を帯びた仕組みも不要だ。むしろ利用時間が少ない方がシステムコストが下がって事業的にはプラスになる。このため、ゲームやSNSで昨今問題になっている若年層の中毒現象も起こらない。

セカンドライフは100万人程度でアクティブ利用者数が頭打ちになった。現在の利用者の多くがリアルの自分よりもアバターで人と接することをあえて選好する人々だ。
利用者層が限定的になっている最大の要因が、大多数の人が自然に、安易に使える仮想現実(VR)の表示・視聴技術がまだ存在しないことだ。
VRゴーグルは人間の頭や目の物理的な動きと映像がうまく整合できず、吐き気やめまいを起こす。重みや締め付けの負担も重く、とても大多数の人に受け入れられる技術ではない。
一方スマートフォンの画面で「周囲」のリアルタイムの動向をうまく表現できる技術もまだない。

実は多くの人やモノが同時に動き、風や騒音や話し声が聞こえる空間を人間の脳や視聴覚がどうやって総合的に認知しているのか、身ぶりや顔の表情をどんな要素で表現し認知しているのか、科学でも十分解明できてない。
開発費や人材の量がものをいう段階まで到達しておらず、メタ(旧フェイスブック)はまだ脅威になりえない。

こんな記事ですが、今のメタバースは「セカンドライフ」と何が違うのか疑問視しているようにも見えます。メタバースなる怪物がこれからどう成長していくのか楽しみでもあります。そんなこともあってとっくに「セカンドライフ」は卒業したのですが、今のメタバースなるものがどんなものなのか、ちょっぴりのぞいてみることにします。

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