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呼び戻し

家庭犬訓練試験に「停座及び招呼」という科目があります。犬を停座させ、10mの遠隔地から呼び寄せる訓練ですが、この訓練科目ができれば日常生活でも大変有用です。

裏の原っぱに登場する牝の芝犬、見栄えもいいし賢い犬ですが気が強いのが玉に瑕です。気が強いというよりは、このワンちゃんもお山の大将と言ったほうがいいでしょう。
お父さんとお母さん、それに娘さんに可愛がられる幸せそうなワンちゃんですが、その溺愛が怖いもの知らずのお山の大将に仕立てたのでしょう。

ご両親に連れられて原っぱにやってきて、フリーで楽しそうに遊んでいます。雨降りが予想されていましたが、空はだんだん黒い雲に覆われてきました。そろそろ帰る時間です。
自由奔放に遊んでいるワンちゃんに「おいで、帰るよ」というと、賢いワンちゃん、なんと原っぱに積み上げられた土砂の上に登ってご両親の元に戻る気配がありません。
呼べは呼ぶほど得意気に(そう見えるのですが)逃げてゆきます。空模様はますます怪しくなってきました。

仕方なくご両親はいつもの作戦にでました。呼び戻しの言うことを聞かないワンちゃんを尻目に、犬をおいて帰っていったのです。
土砂の上に登っていたワンちゃんは、頂で伏せをしてしまいました。ご両親の姿はだんだん遠くなって、視界から消えました。
しばらく様子を見ていたワンちゃん、さすが不安になったのか立ち上がってあたりを見回していましたが、しばらくして土砂の上から降りてご両親の後を追うように歩き始めました。

その様子は決して後を追って走っていくのではなく、方向は間違いなくご両親の方ですが、道草を食って帰るような様子です。
きっとご両親とこのワンちゃん、いつものゲームをしているのでしょう。ワンちゃんはきっとまた主人が戻って迎えに来ることを知っているようです。

呼び戻しの効かなくなったワンちゃんは、飼い主にとってもワンちゃんにとっても大変危険です。やはりこの場合も、飼い主と犬の主従が逆転しているからでしょう。